冷たい唇

この記事は一年以上前の記事です。

誰かの気持ちが知りたかった そんなシンプルな願いを叶えてしまった
人にも心があるのだと 知り得ない事を知りたかった
分不相応だと おこがましいと 分かっていた 分かっていなかった 分かろうともしなかった
一体何様になったつもりだったんだろう

太陽が昇って そして沈むのだと それを信じていれば良かった
居心地の良いところではじっとしていたくなかった
いつからだろう 秒針を見なくなったのは
いつからだろう 諦めた事すら忘れて呆けるようになったのは

境目に留まっていたら空気と水の境界が分からなくなって
君を覚えておくことだけに必死な僕の四肢は少しずつ綻び始めた

「おはよう」と「おやすみ」が欲しくて それだけの為に回る星さえ手に入れようとした
欠けた隙間に 火で炙って零れ落ちた心の欠片を詰め込んでいた
潤んだ瞳の意味するものが 僕には見えなかった 見なかった 見たくなかった
デコボコになった表面を やすりでひたすらに擦り続けていた

綺麗なものは全部残酷で 水面を伝う波紋の様に 僕を侵食していく
君と重なる事が叶うのなら きっと僕はサルビアですら磨り潰すのだろう
いつになれば この身に人の血が流れるのだろう
いつになれば この身があの樹の養分になれるのだろう

違う海に沈んだ君を探す事に夢中で息継ぎを忘れたんだ
時の渦に引っ張られても記憶の約束に手を伸ばし続ける僕は指先から壊れ始めた

焦げ付く心を最後の腕で引っ張り出して
あの日の湖の雫に変えたから
君の乾いた口に届けに行くよ

君の伏せた瞳は透明な刃で僕を優しく貫く
君の夢を見たくないから僕はずっと眠れない

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